風景を観てまわるだけでは、本当の対馬を知る
ことはできません。
美しい自然も人々の信仰によって守られていたり、
海と山の営みが繋がっていたり、
神々や仏様が身近だから暮らしが豊かだったり、
大陸との交流から生まれた文化も。
対馬の魅力は、その背景にある物語を知ることで
深く感じることができるのです。
だから、ぐっと奥まで旅してもらって対馬を
好きになってほしい。
そんな思いを込めた体験ツアーをご紹介します。
海遊記体験ツアーは対馬の海を一番知り尽くす地元漁師がガイドとなって、海を案内します。サバやクロマグロの養殖場、そして問題となっている磯焼け、海洋ごみのことを皆さんと一緒になって考えていくという内容です。海洋ごみについては、陸からだけではなく、船の上から海底に沈んでる海洋ごみも見ていただきます。海の魅力も課題も知っていただいた上で、次の世代にこの素敵な海を残したいという思いに共感してほしいというところから海遊記ツアーを始めました。最も見てもらいたいものは、対馬の大切な資源と言える「人」、ガイドをしてくれる人たちです。今は7名の漁師にガイドとなっていただいてます。今までは若い世代の海に対する思いが遠くなっていると嘆く漁師もいました。しかし、今は次の世代にどうしてもこの綺麗な対馬の海を残したいという気持ちが日増しに強くなっています。
昨今、掲げられている海の問題としての漁獲量の減少、資源の枯渇。漁師が稼げない時代になってきています。だから、新たな取り組みをしないといけない。そこで獲る漁業を「語り伝え、つなぐ漁業」へと進化させ、新たな漁業を行うことで漁師をしながら新たな収入源を作っていく必要があると考えています。また漁師と一般の人たちってなかなか触れあいにくい部分があるんです。漁師と人、海と人を繋げるような事業をどんどんやっていきたいなと思っています。
丸徳水産は家族で経営していて、私たち家族自体が海で繋がっているんですよ。親父が素潜り漁から始まって、今は、養殖業だったり加工業、飲食業、いろんな事業を通して、海とともに成長してきました。次は海と人を繋ぎたいと思っています。地元の人でさえ、海という環境に触れる機会が少なくなってきているんですね。私たち自体は、点と点なんですよ。その点と点が線となって、また「えん」となって御縁となればという思いで取り組んでいます。
対馬の周りには天然の岩礁が点在し、対馬暖流と大陸沿岸水が交差して豊かな漁場となっています。対馬ならではの水産物といえば水揚げ全国1位を誇る穴子ですね。他にはイカ釣り漁もありますし、養殖業ではクロマグロが盛んです。アコヤ貝の真珠養殖も行われていますよ。丸徳水産ではサバの養殖、ブリの養殖をしています。温暖化により水温の変化、台風の被害、環境問題・・・いろんな課題はありますが、海の豊かさを存分に活かした水産業を行っていきたいです。
漁業をしていて気づく近年の海の変化では、海水温の上昇で、南方系の魚が増えたこと。それと、磯焼けの問題ですね。磯焼けは元々生えていた海藻が無くなる現象で、今や全国的に起きています。私自身、海に流れてる海藻を拾い集めて植え付けるなど対馬市と協力しながら対策に取り組んでいます。イスズミやアイゴを餌にする魚がいるんですけど、イスズミなんかは猫またぎって言って、猫もまたいで食べない臭い魚ってイメージがあり、今までは取れても捨てられていました。そんな未利用魚を有効活用しようということで、「そう介プロジェクト」という活動を行なっています。「そう介」は、海藻を増やそうとか、相互に良くなる、おいしい惣菜に変わるなど、いろんな「そう」が込められた言葉なんです。実際、加工されたイスズミは子どもたちからも大人気なんですよ。
もともと海は、山から栄養分や有機物を河川を通してもらっているんです。だから海を守るためには山も守らないといけない。山と海が繋がっているということをいろんな方々に知っていただきたいという思いがあります。実は私たちもお米を作るお手伝いをしています。その際にやっぱり山の畑、田んぼの問題だったり、いろんなことを思って、このお米1つを作るのにすごく手間がかかってるっていうことを感じています。
せっかく対馬に来ていただけるんだったら、対馬のものを食べていただきたい。唐揚げとかではなくて、対馬の地のもの、魚に変えてみようかなとか、対馬のお米、ヤマネコ米ちょっと食べてみようかなとか。ちょっとしたことでいいんで、対馬のものを食べていただいて、あ、対馬のものっておいしいんだ。じゃあちょっと観光終わって帰ってから、対馬産のものあったらちょっと手に取ってみようかなと思っていただけたら嬉しいです。
犬束祐徳(いぬづか ゆうとく)
長崎県対馬市生まれ。一家で経営する丸徳水産に入社し漁師となる。
現役の漁師が直接案内する学びのツアー「海遊記」を立ち上げ、
地域と連携しながら主体的に活動。
海を愛する地元漁師のガイドからリアルな海の今を学ぶ海業体験
所要時間:2時間程度/集合場所:丸徳水産工場
有限会社 丸徳水産
所在地:長崎県対馬市美津島町久須保668[MAP]
体験料:一般料金:7,500円/島民料金:6,500円/ファミリー割:6,000円
受入時間:9:00~15:00(月曜休)
予約お問合せ:(有)丸徳水産(海遊記ツアー)
海の体験ツアー「海遊記」と山の体験ツアー「Meet meat」を同時に楽しめるコラボレーションのスペシャルツアー。(所要時間2時間程度)
山の捕獲現場、海の養殖現場、磯焼けの現場へ移動。
生簀での餌やりと海底観察、海と山の命についてレクチャ、解体及び加工現場の見学。海と山のBBQなど普段は立ち入ることのできないリアルな現場へ足を運び特別に体験することができます。(内容は応相談)
所要時間:2時間程度/集合場所:丸徳水産工場
体験料:2名まで8,500円/人、3名以上7,500円/人
受入時間:9:00~15:00(月曜休)
予約お問合せ:対馬グリーン・ブルーツーリズム協会
今、対馬をはじめ、日本全国で野生動物による様々な問題が起きています。増え過ぎたクマが市街地に出没したり、イノシシやシカが農地を荒らしたり。その中で捕獲活動が行われているんですが、実際に目の前で現場を目にしない方が多いですよね。どんな罠を使って捕獲をしているか、私たちガイドと一緒に山に行って獣道を探して、もし運よく罠にかかっていれば、その止め刺し(命をいただく行為のこと)や解体まで見ることができる。それが「Meet meat体験」です。
さっきまで生きていたものが命を終えてお肉になっていく。その一連を見ることでようやく「いただきます」の意味を理解できた気がすると、皆さんおっしゃっています。解体と加工を経たお肉を自分たちで直に炭火で焼いて食べていただくんですけど、家庭での焼肉とは違う、豪快に塊肉を味わうバーベキューは最高に美味しいんです。より、ちゃんと食べようという思いになったという感想は、よくいただきます。
対馬は島のイメージがあると思いますが、実際に来てみると島の9割が森です。その森の中は、ほとんど平地がないので、資源で言うとまずは原木しいたけですね。木を切り倒して菌を打った木からポコポコとシイタケが生えてきます。それと、対馬は日本ミツバチしか生息していない島なので、伝統的な「蜂洞」という養蜂が行われています。秋になると自然薯、春にはタケノコ、フキノトウなど色んな自然資源が沢山あります。しかし、その一方でイノシシ、シカによる農業や林業の被害が広がっています。畑に入ってシイタケも農作物も食べてしまう。それに加えて生態系被害もかなり深刻化しています。今4万7000頭のシカがいると言われていて、一頭あたり草を毎日3キロも食べてしまう。そうすると下草がない山が広がってしまい、大雨が降ると栄養がない土砂が海に流れる。海が痩せて、それが磯焼けにも繋がっているのではと問題視されています。そういった課題への対策の一つが狩猟なんです。狩猟って聞くと一般的には楽しみのためのスポーツハンティングとして捉えられていますよね。しかし本来の人間の歴史を遡れば、畑を守り、タンパク源を得るためにイノシシ、シカを獲る。自分たちの身近な生活の範囲で野生動物とのバランスが取れていたのが、今の私たちはほとんどのものをスーパーで食べ物を買い、遠い異国から運ばれてきたものを食べるようになってしまいました。身近な自然との関係性が絶たれたことで、野生動物が増えてバランスが崩れてしまう。そのバランスを戻すために、行政が支援した形で有害鳥獣捕獲の活動が行われているんです。
私自身、動物が好きで獣医師でもあり、絶滅危惧の動物ツシマヤマネコを守るための活動を勉強しに対馬に移住したんですけど、地域の方のお話を伺うと、ヤマネコがいなくなってもちろん悲しいけど、それより物凄い勢力で畑に押し寄せてきているイノシシやシカをどうにかしたいと悩まれていたんです。そこで有害鳥獣駆除、捕獲が行われていることを知りました。移住してきた当時は1万頭のイノシシが捕獲されても9割以上は土に埋めていたんです。私たちはもともと、狩猟採集民族なのだから、食べる方法がきっとあるはず。そう思って、冬場に対馬に来て解体をさせてもらいました。その時、お肉ってなんて温かいんだろうと感じました。捌いている手先も温かいし、お肉を入れたビニール袋はまるで携帯カイロみたいでした。普段スーパーの冷たい肉しか食べていなかったから、それが命であることに気づいていなかったんですね。解体を通じて温かさに触れた時、あぁ!自分は他者の命によって生かされていたんだなと気づかされました。
陸地で生活している私たちは、海はレジャーで釣りには行くけれども、なかなか自分たちの生活が海に影響することを感じにくい。漂着ごみや磯焼けは日本全国的にも問題視されていますが、それだけを見て、私たちの生活がその結果を出していることに気づける人は少ない。対馬は海も山もどちらも大変な状況で、そんな課題を身近に感じられる場所だから、海と山それぞれではなく両方を一緒に体験することで、双方が深く結びついていることを学べる。物事を大きく変えるのは私1人では無理ですが、この体験に参加してくださった一人一人が少しでも何か気づいて自分の生活でに生かしていくだけでも、社会環境に対して物凄いインパクトがあると思います。
対馬に来るとポジティブな意味でのショックを受けられると思います。え?こんなに海の中に海藻ないの?こんなに山の中に下草ないの?イノシシ、シカってこんなにたくさんいて、こんなふうにお肉になるの?こういった、さまざまなショックを短い間にで感じられるのが私は対馬の魅力だと思っています。社会課題を解決して環境をより良くすることは、大前提として「楽しい」とか「おいしい」といったワクワクする感情がないと続かないと思っています。捕獲が済んだら土に埋めて終わりだと発展が全くない。それをうまくお肉にして、皮にして、どんなふうに捌くのかを見た上で美味しく食べていただきたいです。食べることは、この土地で育ったものを体に入れて、その土地とつながること。体を作ってくれるものがどこからどう来たのか、手に取るようにわかるのが、対馬のもう一つの魅力だと思います。
齊藤ももこ(さいとう ももこ)
獣医師。2013年に長崎県対馬市に移住。
2016年に一般社団法人daidaiを設立。
「獣害から獣財へ」をキーワードに、イノシシやシカの鳥獣害対策、肉や革などの資源活用を通じた普及啓発活動に取り組む。
「獣害から獣財へ」をテーマに猪やシカの捕獲や食肉解体、加工を学べるツアー
集合場所:対馬もみじぼたん
対馬もみじぼたん
所在地:長崎県対馬市美津島町久須保668[MAP]
体験料:
A 工場見学5,000円/組(~5名まで)※6名以上はお一人様1,000円追加(所要時間:1時間程度)
B 捕獲体験5,000円/人 ※最小催行人数2名(所要時間:2時間程度)
C もみじぼたんBBQ ※詳細はご要望に合わせて設定。受け入れ時間要相談
海の体験ツアー「海遊記」と山の体験ツアー「Meet meat」を同時に楽しめるコラボレーションのスペシャルツアー。(所要時間2時間程度)
山の捕獲現場、海の養殖現場、磯焼けの現場へ移動。
生簀での餌やりと海底観察、海と山の命についてレクチャ、解体及び加工現場の見学。海と山のBBQなど普段は立ち入ることのできないリアルな現場へ足を運び特別に体験することができます。(内容は応相談)
所要時間:2時間程度/集合場所:丸徳水産工場
体験料:2名まで8,500円/人、3名以上7,500円/人
受入時間:9:00~15:00(月曜休)
予約お問合せ:対馬グリーン・ブルーツーリズム協会
龍良山の特徴は、一言でいうと縄文時代の森が変わらず残っている点かと思います。照葉樹の森が手付かずで残っていることに加えて、麓の方から山頂までずっと連続した植生が残っているところが龍良山の大きな特徴です。
縄文時代から変わらない原始林が、どのように命をつないでいるのかという点がすごく分かりやすいんですね。例えば巨樹が倒木していたり、倒れた木々の間から光が差し込んで、地面から新しい命が芽吹いている。その世代の移り変わりをリアルに感じることができます。山頂までいくと麓の方とは違った環境の移り変わりが見られます。
また、原始的な自然の特徴のひとつとして、想像を絶するほどの巨大な木があります。龍良山の照葉樹を代表するスダジイの巨木がもっとも有名ですが、これは登山口から入って20分ほどの場所にあります。鬱蒼とした、もののけの世界です。大地にどっしりと根を張ったという感じの大きさで、大人が10人ぐらいでようやく1周できるくらいでしょうか。これも人が木を切らなかったから残された自然なんですね。どれをとっても、強烈なパワーやエネルギーを実感できると思います。
縄文時代から変わらず自然が残っていて、植生が連続している。低いところから高いところまで連続している理由の一つが、信仰によって守られてきた自然であるということが挙げられるんですね。信仰というのは、山をご神体と崇める山岳信仰と対馬独自の天道信仰のことで、一般的に神社とか神様っていうと、拝殿や神殿があり、建物の中にはご神体があって、それを拝むのをイメージしますが、山岳信仰に関しては、山そのものがご神体なんですね。龍良山が神様そのものなので、神様の体を傷つけてはいけない。一切人の手が入っていない、一度も斧で木が切られたことがない山なんです。この近くに川があるんですが、川というのは木を切って運ぶ時にすごく便利なんですよ。普通、川の近くの山というと、人の手が入って伐採されるんですが、龍良山は川のすぐ側でありながらも、高密度な原始林を残している。強烈なタブーの言い伝えによって今日まで伐採されず守られてきたところが特徴的だと思いますね。
オソロシドコロっていうのは、いろんな意味があるんですけど、ひとつは結界のことを指します。これ以上先は神様の領域なので禁足だということ。人間の世界と神様の世界を分けることを意味します。龍良山の南と北の斜面にある石積みの塔がオソロシドコロで、敬意をこめた畏怖の気持ちが込められています。それともうひとつ、天道信仰の伝説上の人物、太陽を父に持つ天道法師の母の墓所は北面の山中の裏八丁郭との言い伝えもありまして。結界であることと、天道法師の母の墓所の2つの意味ですね。それが今オソロシドコロと言われて龍良山の山中に残っています。
まずはやっぱり、山岳信仰、天道信仰という地元の人が長年ずっと大切にしていた信仰というものに、敬意を払ってほしいということですね。つい最近まで、地元の人も一切入らなかった山なので、その神聖な場所に入らせていただくという。そういう気持ちで登ってほしいですし、畏敬の念で踏み入ってこそ、残されてきた自然を楽しむことができる。守り抜いてきた人たちの思いに触れることも一つの楽しみ方ですし。そういったことを、龍良山トレッキングでは心に留めていただきたい。
なので、自然だけ楽しむよりも、やはり残されてきた自然に加えて、その背景をきちんと知って欲しい、信仰に関して理解してほしいと強く思っています。ガイドの解説を聞きながら一緒に登っていただくと、自然と人の想いのつながり、そういったところも同時に楽しんでいただけると思いますので、ガイド付きでのトレッキング体験をお勧めしています。
絶滅危惧種ツシマヤマネコが対馬に生息している背景には、人々の信仰や産業の変化が大きく起因しています。観光体験においても、ヤマネコを見る、会うだけの目的ではなくて、市民の保全活動に参加してもらったり、ヤマネコの生態について学ぶことが本当は大事です。龍良山に関しても同様で、信仰によって守られた自然の背景について言えば、この川を挟んで向かい側の内山地区の山は、炭焼きや稲作、椎茸生産を行なっていたり、人々が恵みをいただく生業を続けてきた山なんですよね。残す自然と恵みをいただく自然が対比されている場所で、それも一つの面白さなんです。ヤマネコもそういう原生的な自然だけじゃなくて、人の手が入りながら生み出されてきた環境、いわゆる里山を好んでいる生き物なので。そういった人の思いと人の営みによって形成された対馬の自然を、ぜひ楽しんでいただきたいなって思っています。
感じてほしいこととしては、対馬で暮らしてきた人の思いと営みです。その結果として奇跡的に残されてきた自然があって、これをどうやって未来に繋ぐかを、一緒に考えたいです。地元に住んでいる人だけじゃなくて、観光に訪れた方々も一緒に巻き込んで仲間を増やして、一つのチームとして取り組んでいけたら嬉しいなと思います。
対馬はどちらかというと、レジャー感覚で森林浴を楽しむというよりは、もう1段階進んで、見えている自然の背景を知りたいと思ってくれるような、マニアック層向けの島だと思います。マニアといっても2種類あると思っていまして。珍しい植物や昆虫を採集することに喜びを感じるハンティングタイプのマニア、もう一方は、知ることに喜びを感じるタイプのマニア。龍良山は、知ることで喜びを感じる後者のマニア層におすすめの山です。
川口幹子(かわぐち もとこ)
生態学の研究職を経て2011年に対馬へ移住。
対馬里山繫営塾代表理、対馬グリーンブルーツーリズム協会事務局長を務める。
奇跡的に残された原始的な照葉樹の森をガイドと歩くスタディトレッキング
所要時間:約5時間
所在地(龍良山):長崎県対馬市厳原町豆酘[MAP]
体験料:1名:18,000円/人、2名:9,000円/人、3名以上:8,000円/人
対象:小学生以上
予約お問合せ:対馬グリーン・ブルーツーリズム協会
最初は、ただ幼少期から馴染のみあった対馬が好きで、対馬で何かしたいって気持ちがありました。その時、たまたま塩作りに出会ったんです。親戚の家で塩おにぎりを食べたらそれが美味しくて。対馬って海が綺麗だし、塩作ったら面白いんじゃないかって。自分が美味しい塩を作れば魚ともコラボできるし、山の幸ともコラボできるし、お菓子とも。塩を使って島内を一つに繋げられる手助けができたら、自分の生業としてもやり甲斐があるなと思って始めました。
対馬の海は、まず第一に綺麗。ここが塩作りで一番大事なことですね。赤島は、対馬の中でも随一綺麗な海と言われる、立地として最適な場所なんです。対馬の綺麗な海の要因として、一つは外洋の綺麗な水が入ってくる。対馬渦って言われてる渦があるんですけど、これによって、リマン海流と対馬海流の2つが混ざり合って綺麗な海水が入ってくるのが特徴で、ミネラルが豊富で質の高い塩ができるんです。
今、日本で大体600件くらいの製塩所があると言われて、日本では釜で炊く製法が主流になっています。日本は多雨多湿で塩作りには適さない気候であるため、釜で炊いて効率よく作るのが基本になるんですけど、私たちが行なっている完全天日塩は、釜で炊くことをせずに太陽と風という自然の力で作るんです。製塩所600件のうち、今0.5パーセントくらい、10件から20件、多くて30件ほどしかない希少な製法です。これは釜焚きの塩とは違って、時間がかかる分、温度や湿度の管理が細かくできるので、自分の求める塩の味、形状を作り出すことができるのが最大の特徴です。
天日塩製法の工程は大きく4つ。まず海水を汲み上げ、次に水分を飛ばして塩分濃度の高い「かん水」を作る。ゆっくりと結晶化させて、最後は天日干しで仕上げる。ここでは、この工程を最低でも2か月かけて行なっています。
塩田は木の装置を使った「流下式」と言われるものなんですけど、これは昭和20年代から昭和40年代に昔あった製塩方法なんです。一度法律で全部禁止され撤廃されてしまったんですが、塩が自由化になって、2000年頃からはいろんな生産者さんが再現してこの製法を取り入れています。
天日の塩なので、一番大事なのは何と言っても太陽と風。その中で、少し手を加えてあげて、塩が成長していくのを手助けしてあげるような感覚で、美味しくなるように整えていく。混ぜ方や、混ぜるタイミングを図りながら味を変えたり形を変えたり。その日の気温、湿度の状況を見て、都度いろんな工夫をしています。自然の力を引き出しながら、人が手助けしながら育ててあげる。対馬の、この地理的条件や自然の恵みがあってこそ出来る製法だと思います。
とりわけ苦労するのは、天候の見極めです。梅雨時期は太陽が出ない日が続きますし、季節によって粒の出来方が変わったりするので、釜炊きに比べると安定供給ができない。しかし、少量でもこだわって作るのが天日塩の良さでもあるかなと思ってます。そういうところも楽しみながら大変さと向き合ってます。
天日塩の中でもいろんな種類を作っていて、魚、肉などそれぞれの料理に合わせられるようにしています。対馬では、穴子の刺身に合わせて細かいパウダー状の塩を使っていただいたり、白焼きだったらちょっと粒感のあるものをお勧めしたり。対馬の魚、名物の穴子をより美味しく食べられるとの声をいただきます。取引先としては料亭や寿司店などが多いですね。料理人さんからもシンプルに美味しい、使いやすいと言われます。料理人さんによっては、独自の要望をいただくことがありますので、その時は、オーダーメイドで料理人の方と一緒に開発することもあります。
対馬産の食材を活かして、他の事業者さんと一緒に対馬を盛り上げていくことが一番大事かなと思っています。対馬という言葉をブランドにしたいですね。対馬の穴子、対馬の魚という言葉だけで美味しく聞こえるように。他の事業者さんと一緒にコラボをして、対馬ブランドが全国に、世界に広がって・・・という手助けを塩を通じてできたらいいなと思っています。
ここでは、まず天日塩の作り方の説明とともに、テイスティングを体験してもらいます。大きく分けて3種ある塩の食感や舌触りの違いについてレクチャーを受けながら、一般に売られている塩との違いを知ってもらう。塩って身近にあるものなので、興味があるようでないものの一つかもしれません。私の製塩所にもし来ていただいたら、塩の味がこんなに違うんだとか、こんなふうに作ってるんだ、などを感じられると思います。それによって日頃の料理の仕方だとか、塩の使い方、もしくは食材の選び方も変わってくるかもしれません。また、親子の体験でいえば、塩が結晶であることをを知らないお子さんも直に見て学べるし、塩分濃度の計算のような算数的な話も聞けたり、座学だけじゃなく実際見て体験できるのは大きいです。
観光に来て感じることって、人それぞれだと思うんですね。対馬ってとても広い場所なので、ゆっくり時間をとって、自然の良さを体感してもらいたい。特別何かあるわけではないんですけど、何にもないからこそ何かを感じ取ってほしい、そこを見つける旅をしに来てほしいと思います。
平山剛規(ひらやま たけのり)
N-TECHシナジー株式会社、塩職人。対馬出身の両親の故郷対馬の素材でなりわいを作りたいと
独学で塩づくりを学び、2021年に赤島製塩所を開業。
完全天日塩ができるまでの工程や思い、対馬の環境について学ぶスタディツアー
体験料:3,000円(対馬のほし粒3種類セット付)
※家族連れの場合、小学生以下は無料、中学生、高校生は1,000円(お土産は無し)
所要時間:約60分(夏場は時間短縮)
集合場所:赤島製塩所
赤島製塩所
所在地:長崎県対馬市美津島町鴨居瀬567[MAP]
受入人数:1回につき5名まで(グループの場合は要相談)
最小催行人数:1名 受入時間:9:00~15:00
予約お問合せ:(株)N-TECHシナジー赤島製塩所
(おひさま育ちしおづくりの会、Instagram DM又はeメールにて予約)
eメール: info@ntechsng.com
※申し込みは2週間前まで(以降は応相談)
浅茅湾の何がいいかと言ったら、一番はセーフティ、安全性なんですよ。対馬は日本と大陸を結ぶ中継地点ですが、その中でも浅茅湾というところは上対馬と下対馬の間にあって、無人島も含めて沿岸の距離が387キロという、とにかく物凄いリアス海岸で。外海の風や波があっても浅茅湾のなかは極めて静かなんです。船が停泊するには持ってこいの安全な場所なんですよね。だから、遣唐使や遣隋使もここから出ていった。歴史的な湾の中を、シーカヤックという古代の手漕ぎ船、要するに化石燃料を使わないエンジンのない船で、古代と同じ景色の中を楽しんでもらうというのが、浅茅湾シーカヤックの魅力なんですね。
古代と同じ何もない景色なので、冒険心も湧いてきます。年配から子供まで、ロングコースを旅しようと思ったらできてしまう。他の所に比べると長くゆっくり味わえる。なぜかと言うと、浅茅湾沿岸は長い旅でも飽きさせない、人工物のない景色しかないからです。風光明媚な観光地にはホテルや別荘があったりして、どこか興醒めしてしまうんですけど、浅茅湾の場合は本当に何もないので。そういったものを一切目にする事なく、古代の世界に没入出来てしまうところが浅茅湾の面白さなんです。人工物のない景色しかなく他に遮るものがないので、夜になると星空が綺麗なんです。浅芽湾に面している入江の中には、キャンプ場もあるのでシーカヤックからでも着岸できるし、そういったことにチャレンジしてみる面白さもありますよね。風も遮られた場所なのでゆっくり過ごすのも。
1300年前の景色の中を漕いで、無人島にも渡ります。金田城はシーカヤックでも漕ぎながら城壁を見ますが、実際に上陸してトレッキングしながら二ノ城戸まで行き、7メートルの高さの城壁を見てもらいます。途中神社や無人島に立ち寄りながら、引きのアングルで先程登った城山全体を見てもらう。反対の方角に見えるのは国境の水平線。見通しがいい時は韓国が見えます。対馬は大陸の珍しい植生が見られる場所なので、四季折々の花も楽しめます。春夏はハクウンキスゲ、ハマボウ、秋はダンギクとか。絶滅危惧種のミサゴなど稀少生物もいたりします。ツアーの終盤は無人島に立ち寄って、ペットボトルや漁具などのプラスチックごみが漂着する現場を見てもらって一緒に清掃活動をして、ツアーを終えるという形をとったりします。漂着ごみの問題を抱えたままでは綺麗な海が未来に残せない。遊びだけでなく、環境問題を意識し大事さを体感してほしい。企業や学生の方々にも、こうした気付きを与えるために、ごみを回収する環境スタディツアーを企画しています。
不便さが感動を呼ぶ、ということはありますね。ある程度漕いだところで、カーブを曲がったところに鳥居とか1300年前の城壁があって。自分で船を漕いで上陸して城壁を見た時の感動と、陸路で車でパッと行って観る、というのは違いがあると思うんですね。昔の人たち、とんでもないことやってるよなあ、本当に、ここ神様いるよなあ、と改めて感じるし、気付かされる。そういった体験型観光の醍醐味を実感できるというのがシーカヤックの面白さだと思います。
浅茅湾の今のままを超目玉にして、建造物なんかも何も作らず、化石燃料を使わないアウトドアとして遊んでもらうのがいいんです。ちょっと出遅れただけに、こんなにも貴重な景色が残ったということなんですよね。それを生かすことが次の世代の絶対的な魅力になる、しかもアジアの真ん中にある。みんながこれで楽しめるという形を作れば、絶対今後超目玉になっていくんじゃないかと思っています。日本の中でもね。
先日、お客さんが面白い話をされていました。パラオとかフィジーとか海外を色々と旅されている方なんですけど、その方が言うには、対馬は歴史が80%、90%くらいあって、自然も80%か90%ある。この二つを掛け合わせた所は、世界の中でも結構少ないと。さらに、化石燃料を使わないシーカヤックが80%だとして、この3つを掛け合わせたところはそうそう無いとおっしゃっていたけど、まさにそうだなと思いました。他の所は、自然は80%から90%あるけど、歴史は20%、30%だったり。京都は歴史に比重を置いているけど自然は割合的に少ない。これが高いレベルで掛け合わさり、しかもシーカヤックを一つのツール、旅の道具として使う。こういうのは珍しいって褒めていただいたんですけど、私もそうだなと最近思ったりしています。その自信は、なんか出てきたような気がしますね。対馬の場合は、他のとこと同じように便利なものを作ってしまうと、ちょっとつまらないというか。やっぱりこう、一生懸命頑張ってくださいっていうところに神々がいる、みたいな形の方が、説得力があると思うんですよね。
歴史も自然も掛け合わせて体験して、1300年前と変わらない景色の中を楽しんで。さらに、未来のことといいますか、今後は便利なもの、プラスチックとどうやって付き合っていくのか、未来の環境のためにですね。過去から未来に繋げることができる観光が、対馬感考だと思っています。
上野芳喜(うえの よしき)
対馬エコツアー代表取締役。1992年に故郷の対馬に帰郷し
浅茅湾をフィールドにシーカヤック事業スタート。厳原にあるバー「風音家」マスター。
目的地を設定したい、達成感をもっと味わいたいという時に通常のメニューにはない独自の長距離コースを設定し、チャレンジすることも可能です。
リアス海岸の美しい地形を、海から巡り全く新しい角度で見つめ直すことができます。浅茅湾エリアには海に面したあそうベイパークなどのキャンプ場もあり、海と山BBQ体験など"原始的でワイルドな旅"を実現できる絶好のエリアです。
古代の山城や無人島スポットを巡る、海上アクティビティ
[対馬エコツアー]
体験料:【半日】1~4名様:7,500円/名 【1日】1名様:15,000円/名、2~4名様:13,000円/名、中学生以下10,000円/名
※トレッキングやファミリープランあり
※含まれるもの:装備一式、レンタル料、ガイド料、おやつ(1日ツアーは昼食)、保険込み
受入時間:9:00~17:00
住所:対馬市美津島町箕形29[MAP]
予約お問合せ:(有)対馬エコツアー
ホームページ又は電話にて要予約(前日まで)
URL:http://tsushima-eco.com/
TEL:0920-54-3595TEL:0920-54-3595
[対馬カヤックス]
体験料:【半日】大人6,500円/名、中学生以下4,000円/名【1日】大人:12,000円/名、中学生以下8,000円/名
※リピーターおよびリピータと一緒に参加される全員に大人1,000円、中学生以下500円OFF
※含まれるもの:装備一式、レンタル料、ガイド料、飲み物(1日ツアーは昼食)、保険込み
受入時間:9:00~17:00
住所:対馬市美津島町箕形38[MAP]
予約お問合せ:対馬カヤックス
ホームページ又は電話にて要予約(前日まで)
URL:https://www.tsushima-kayaks.com
TEL:090-4981-5064TEL:090-4981-5064
※ロングコースのお問合せ:対馬グリーン・ブルーツーリズム協会
対馬には素朴な信仰が残っていて、信仰のガラパゴス島と言われています。古いものが新しく変化するのが普通ですが、対馬は古いものが古いままに残っています。神様仏様を祀ったり、ご先祖様を祀る行為が当たり前のように生活に溶け込み、人々の豊かな心を育てているように思います。人間にとって大事な心に関わるものって知識や躾と違って、親や先生が教えられないですからね。そして対馬は、神社の数が多い、今でも小さな神社を含めると150を超えて神社本庁に登録されています。また神様のメンツの揃いが良く、古事記や日本書記における神様が大概おられます。特に厳原は、狭い町なのに10数軒ものお寺があったり、神社もたくさんあります。生活上の身近な神様も多く、水神さまや井戸の神様、カッパ伝説、身近な神々が本当に多くて、古くから祈りが染み込んでいる島だなぁと感じます。しかも、それぞれが切実な祈りなんです。なぜかというと、厳しい自然環境、平地が少ない孤立した離島で自然とともに生きていくための人間の知恵が必要だったから。信仰を通して自分の厳しい現状を受け入れ、生きる術を身に付け、情緒を育てる工夫でもあったのではないのでしょうか。
白嶽、御嶽の山岳信仰も興味深いですよ。例えば修験道の人たちの「狼煙」。対馬は日本と朝鮮半島の間に置かれている島なので、大陸で何かあった時に狼煙で太宰府までつなぐのが一番のお役目ですよね。対馬から壱岐、壱岐から太宰府って、何か国変があると、すぐ知らせるための狼煙で伝え合う技術があった。修験道独自の護摩儀礼、木や藁を積み上げ、そこへ仏菩薩を招き点火する柴燈護摩。国の一番端という立地で、何かあった時に繋がなければならない。そういうことも信仰が担っていたんだと思います。
対馬の人は宗派にはこだわらないところが特徴的ですね。自分のお寺も大事、地元の神様はもちろん大事。弘法大師信仰も大事にする。情報が少ない閉ざされた環境の中だからこそ、熱心に信仰されてきたのだと思います。日常的で身近な神様といえば、厳原の至る所にお地蔵さまが見られます。京都や大阪の商人、京都五山の僧侶から厳原の城下町に伝わった祭事「地蔵盆」は、町の辻筋に祀られたお地蔵さんにそれぞれ飾りつけをして手を合わせてお供えものをする夏の行事で、これはもう、子供たちにとって素晴らしい情操教育だと思います。遠く離れた京文化を柔軟に受け入れ、今でも残されている。お祭りの仕方は庶民的で、宗派の名前を冠にした人為的なものではくシンプルすぎるぐらい。その中に、思いやりとか優しさがあって。こういうところが、対馬が精神的に豊かだなと感じるところです。
対馬の信仰文化の一つに、6ヶ所の観音堂をまわる「六観音まいり」があります。観音像で有名な長谷などは、観音像それ自体が有名ですよね。金閣寺や銀閣寺、他にも有名な何々寺というものは、建物がお寺として有名で、その建物をお参りします。しかし対馬の場合は、観音の聖地というと観音様が顕現される、そこに存在するということを意味します。海辺の崖や、綺麗な川が流れているところ、山裾の清まった場所、そういうところに観音様は現れ、出会う。聖地であり、巡礼の道場である。巡礼とは何かというと、道中、旅の途中ですね。大自然の中を歩きながら、船で海を渡りながら。そういう古い時代からの巡礼が残っているのが対馬の六観音の特徴じゃないかなと思います。普段の生活から離れて異空間に入ると、人間って内面化できるんです。観光名所を辿る目的ではなく、拝むために行くと、心の中のものが現れる。今の言葉で言うと、リトリートと言うのでしょうか、信仰深い対馬の地だからこそ残された文化だと思います。
対馬の信仰文化を体験するなら、まずお寺に泊まるということが、入り口としてはあります。対馬厳原にある宿坊西山寺は、外交に関わってきた由緒あるお寺です。海と港が見渡せて、風光明美なところで、自然に囲まれて静かな時間を過ごしながらゆっくり神様仏様と向き合えます。お寺に泊まって座禅などもできますし、厳原の街中で信仰体験ができます。泊まってゆっくりじっくり、自分を見つめ直す時間にもなるんじゃないでしょうか。
対馬は古来、飛び石的な島として、豊かに、したたかに根を張ってきた島です。対馬に来る時には、心空っぽにしてもらって、感度だけ良好にしといてもらうと、その人に感じる何かがあります。これを僕らの世界の言葉で「虚往実帰」、虚しく往きて満ちて帰る。その人にとって良かったなと思えるものが必ずあります。それは、人との出会いか、自然であるかもわからない。食であるかもレジャーであるかも。だけど、何かがあります。そのためには、空っぽの気持ち、心で来てもらうのが良いと思います。対馬の一番の良さを、ピリッと感度を上げて、ぜひ感じていただきたいです。
地蔵盆や六観音、護摩行など心身を整えるマインドフルネスの体験
料金/宿坊対馬西山寺:素泊まり6,000円~(1泊/名)
その他体験については要問い合わせ
予約方法・お問合せ
寺泊/宿坊対馬西山寺:https://seizanji.com
対馬六観音まいり、地蔵盆、護摩行等のお寺体験/対馬観光物産協会
TEL:0920-52-1566TEL:0920-52-1566