9月中頃を過ぎて秋風を感じ始める頃に、島内の岩場や山裾で見られる「ダンギク」。
青紫の小花が葉の付け根ごとに集まり、茎を取り巻くように咲く珍しい形を
しています。その姿は、五重塔の頂にそびえる相輪の段を思わせ、
花が幾重にも重なりながら、天へと静かに伸びていくように見えるのです。
名に「菊」を冠しながら、実際にはキク科ではなく、シソ科カリガネソウ属に
属する多年草。しかしながら、葉のかたちは確かに菊を思わせ、日本人の心に
深く響く風情を湛えています。
本来は中国や朝鮮半島、そして日本の九州西岸など限られた地に自生し、
国内では絶滅危惧類に登録されるほど希少な存在です。夏の暑さや湿気にも
驚くほど強く、気候の変化が激しい岩場でも、凛とした彩りを添えています。
限られた土地にしか自生しないことを思えば、その花姿に出会えること自体、
一期一会のような尊さを感じさせます。
対馬では比較的多く日常の散歩の途中にも出会えることがありますが、
それもまた、この地ならではの恵みと言えるでしょう。自然の厳しい場所、
限られた土地でひっそりと命をつないできた物語に思いを寄せると、
いっそう味わい深く映ります。
まだ残暑が続いていますが、少しずつ移ろう季節、和の趣を探しに、
山歩きに出掛けてみましょう。
(対馬感考案内人F)