秋と言えば紅葉を楽しむ人たちで日本各地が賑わいますが、対馬の山々も秋が深まってくる11月中旬を過ぎると徐々に色が濃くなり、紅葉散策が楽しめるようになります。最もよく知られている対馬屈指の紅葉スポットが「舟志のもみじ街道」です。舟志川に沿って7キロに渡りもみじやカエデが群生するエリアです。空港から上対馬に車を走らせること1時間余り、途中、日本最古とも言われる銀杏「琴の大イチョウ」を経由して、しばらく進むとバスがギリギリ通るくらいの道幅の細い道路に入ります。エリア全体が森林公園となっているため、道路脇にある駐車場に車を停めて、川沿いの歩道を散策することができます。
道路脇を歩くこともできますが、沢のほうに降りて水際を歩き、川のせせらぎを聞きながら湿った落ち葉を踏み歩くのも、秋らしい情緒が感じられます。この街道には、ヒノキなど常緑の緑にモミジ、カエデが混ざって群生しているため、一般的に取り上げられる紅葉スポットとは異なる特有のコントラストで、常緑樹が立つ山に潜む、独特な秋気を感じます。日中の喧騒が静まる夕暮れ時は心が一層研ぎ澄まされる、おすすめの時間帯です。夕陽が差し込む林の中、冷たい風が木々を揺らし、1枚1枚地面に葉が落ちる姿や音に耳を傾けながら佇む「もののあはれは秋こそまされ」です。


毎年何気なく見ている目にも鮮やかな紅葉ですが、植物にとっては大切な冬支度の時期。葉が赤く染まりはじめる頃、枝と葉のあいだで行っていた水や栄養の供給は次第に止まり、真っ赤に染まり尽くしたと思うと、やがて葉はそっと役目を終えて静かに散ります。春の芽吹きに備えて、葉から幹へエネルギーを送り返す、大切な自然の営みです。「紅葉」は、色彩的な美しさだけではなく、命を繋いでいくために生き生きと最後の炎を燃やしている植物の内側からの輝きでもあるのです。


散り際の美しさという言葉がありますが、鮮やかに咲き誇る姿だけを愛でるのではない、落葉の儚さや、静かにじっと春を待つ凛然とした姿を愛でるという日本人独特の感性があるからこそ、私たちは紅葉に心惹かれるのかもしれません。
燦々と晴れた日の、照り輝く紅葉。雨上がりのしっとりとした空気に包まれた物憂げな紅葉。燃え立つような赤が、風に吹かれて散りゆく様。静かに自然と対峙できる紅葉狩り、今年はどのような景色を目にするでしょう?
(対馬感考案内人F)