季節ごとに多彩な魚種が揃い、その鮮度と味わいは全国の料理人からも評価される対馬の海産物。特に本格的に気温が下がり始める晩秋から冬にかけて、ますます美味しくなる時期を迎えます。真鯛やアマダイ、あなご、アカムツ(ノドグロ)、マグロ、クエやハタなどの対馬が誇るこの時期の魚たちは、寒くなると魚の身が締まり脂が乗ってくるので、焼き物、煮付け、干物にしても美味しく味わえます。お刺身は、つけた醤油が浮いてしまうほど脂乗りがよく、郷土の鍋料理「いりやき」の出汁もまろやかで濃厚。高級寿司店や料亭などで扱われるノドグロは、白身魚とは思えないとろりした濃い食感で上品な甘さ。どんな調理法でも他の季節とは違う旨みが味わえる、食通にとって黄金シーズンと言えるでしょう。





急速冷凍などで新鮮な天然の海産物が全国どこでも入手できるようになりましたが、それでも水揚げされた土地で食べた方が美味しく感じるのは何故でしょう。それは、鮮度本来の意味で言うと、現地で食す方が口に入るまでの時間を物理的に短縮できるから。そして、獲れたものをその土地で食すというこの上ない価値を、目や舌だけでなく身体全体で味わえるからです。
近年食品加工技術は急速に進んでいるものの、魚介は水揚げ直後から時間の経過とともにうま味成分は増える一方で、弾力や香りは少しずつ失われていきます。特に青魚や甲殻類は鮮度落ちが早く、数時間の違いが味に大きく影響します。また、距離が近い方が輸送や保存の過程を挟まないため、温度変化や振動による品質低下もありません。
旬を迎えた魚は栄養が最も充実し、旨みや脂のバランスがピークに達します。対馬の魚本来が持つ100%の味を対馬でいただくことは、ありのままの素材の生命のエネルギーを感じる、最も健やかで贅沢な食のかたちなのです。

(対馬感考案内人F)