対馬の環境を守る。命がめぐる豊かな観光と暮らしを目指して。

対馬の環境を守る。命がめぐる豊かな観光と暮らしを目指して。

「対馬って自然が豊だ!」そんなふうに思っている人も多いと思います。実際は、半分は本当で、半分はちょっと違うかも。実はここ対馬では、山も海も、深刻な『獣害』で悩まされています。

何かを発信する時って、美しいところ、いいところを伝えるべきかもしれません。もちろんいいところを知って、対馬を好きになって欲しい。だけど、それだけじゃない、その裏側にある地域のリアルも知って、できれば楽しく関わって欲しい。と、年々荒れゆく対馬に住む一人の住民として思うのです。対馬に来る人にとっても、対馬に住む人の未来にとっても、誰もが幸せになるような鳥獣被害対策がしたい、という思いで活動をしています。

私の住む長崎県対馬は、ツシマヤマネコをはじめとする、世界でもここにしか生息していないような希少な動植物がたくさん確認されている島です。これらの生き物は、ただそこに森や川があったから生き残れたわけではなく、対馬の人々が農林業を営む中で作ってきた田んぼや畑など、多様な自然環境があったから生きながらえてきたともいえます。

田んぼの畔で見つけたツシマヤマネコ

しかし、近年、人口減少、一次産業の衰退、狩猟者の減少など、さまざまな社会的要因から、野生動物と人とのバランスが崩れ、里山の環境は大きく変化し、「豊かな海と山」は失われているように思います。

江戸時代、対馬では深刻な獣害が発生していたことから、イノシシを絶滅させるという大事業が行われ、一時獣害とは無縁の島となりました。ところが平成に入り、ペットとして持ち込まれたイノシシが野生化したことで再び被害が発生するようになりました。

江戸時代に行われた『猪鹿追詰覚書』を再現した絵巻

対馬のシカは、江戸時代に行われたこの大事業後も絶滅することなく対馬に生息を続けました。昔は、今ほど狩猟に関する法規制が厳しくなかったことや、物流が整わない時代の貴重なタンパク源だったことから日常的に捕獲が行われました。しかし、1961年に個体数が減ったという調査結果からシカの保護が開始されました。その結果、瞬く間に個体数は回復し、農林業被害が再び目立つようになったことから、現在では有害鳥獣として捕獲が行われています。

対馬のシカ

飛行機からみると、緑豊かで海の美しい島ですが、一歩森の中に足を踏み入れてみると、増えすぎたシカにより森の下草は食べ尽くされ、島の至る所で土が剥き出しになっています。雨の日には、雨水が土砂を海へと運び、海が茶色く濁り、水産業への被害も報告されるようになりました。山の餌がなくなり、食料を求めた動物たちは農地へと出てくるため、今や防護柵がないと野菜が育てられないような状況です。農家さんたちも獣害や気候変動に振り回されながら苦労して野菜を育てないといけないため、「自分で育てるより買った方が楽だし安い」ということから、農業を辞め、年々耕作放棄地が増えています。そしてこの耕作放棄地がイノシシやシカのすみかとなり、さらに個体数を増やすことに繋がっているのです。

浅茅湾の美しい対馬の景色
下草のない山
雨上がりの土砂で濁った対馬の海

社会の発展により暮らしが豊かになった側面も大いにありますが、地域でものを作らない、地域のものを食べないということがもたらした悪循環を日々感じています。野生動物によるこのような問題は、「野生動物が増えたこと」が問題なのではなく、「私たちがどのように暮らすか」で変化してきた結果なのだと思います。だからこそ、野生動物の対策を担っている人たちだけが頑張るのではなく、そこで暮らす人たちが「もっと農業を頑張ろう!」とか、その場に訪れる人たちが「地域の農作物を買って、食べて応援しよう!」とか、小さくても、少しずつでも行動を変えていく必要があると思っています。

私は、「ツシマヤマネコの保護活動について知りたい!」という思いで学生時代に訪れた対馬で、「ヤマネコどころじゃない!イノシシやシカをどうにかしなければ人もヤマネコも生きていけないんだ!」という地域住民の生の声を聞いて、大きなショックとともに深刻な獣害について知りました。

そして、この現状を知ったことで、「自分にできることは何か?」と問うようになりました。

私自身がそうだったように、「知る」ということで誰かの行動が少しずつでも変わっていくこともあるのであれば、私もイノシシやシカのことを一人でも多くの人に知ってもらい、より良い環境を作るために楽しく関わってもらうきっかけを作りたいと、対馬に移住し、13年間活動を続けています。

では、具体的にどんなことをしているのか。私たちは『獣害から獣財へ』をキーワードに、捕獲されたイノシシやシカの命をジビエやレザーなどの資源へ変え、美味しいお肉や可愛いレザーを通じて鳥獣被害について知っていただく活動をしています。活動の中心となる「対馬もみじぼたん」という工場では、捕獲されたイノシシやシカのお肉を作っており、一連の工程を見学し、工場で作られたお肉を買ったり食べたりできる食育体験施設です。「命」が「食」へと変わる姿を見ること、それを食べることで、その命を育んだ里山が豊かであることの有り難さや大切さ、そこで暮らす人々がいることで成り立つバランスがあること、何よりジビエがとっても美味しいことなどを知っていただきたい、という思いで作った工場です。

対馬もみじぼたん
工場で作られた製品
テイクアウトでジビエが食べられる

もう少しディープに知りたい方向けには、体験ツアーも実施していて、被害の現場や捕獲の方法を現地に見に行ったり、運がいい時には捕獲されたイノシシやシカを見たり、解体に立ち会うこともできます。ツアーの後半では、自分たちでお肉を捌いてハンバーガーを作って食べるというような食育活動も行なっています。

体験ツアー「MEET MEAT」の様子

また、気軽にジビエやレザーに触れてもらえるように、お土産屋さんやスーパーで商品を買うことができたり、飲食店でジビエを食べられたり、と裾野を広げていっている最中です。

daidaiが作ったジビエやレザー

「美味しそう」と思って食べたジビエ、「かわいいな」と思って買ったレザーが、実は対馬の里山を守るために捕られたもので、食べたり使ったりすることでどんどん島の自然が豊かになる。食べた人も、手にとった人も、作った人も、その商品を育んだ自然も、みんなが幸せになっていくような、そんな活動になるよう、今後も楽しく取り組みたいと思っています。

みなさん、是非対馬に来たら、美しい島の自然の裏側にある、リアルな問題や課題にも触れ、楽しみながら関わっていっていただけたら嬉しいです!

齊藤 ももこ
Profile

齊藤 ももこ(さいとう ももこ)

一般社団法人daidai 代表理事。福岡県出身。獣医師。2013年対馬市の地域おこし協力隊として対馬に移住し、2016年一般社団法人daidaiを設立。集落における鳥獣被害対策の支援、GISを活用した計画的な被害対策促進を行うとともに、「獣害から獣財へ」をキーワードに、捕獲されたイノシシやシカのいのちを活用し、ジビエやレザーなどの資源利用を通じて「美味しい!」「楽しい!」をきっかけに鳥獣被害対策に関わる人を増やすための活動を行なっている。

HP: http://www.daidai.or.jp/
Instagram:アカウント名:daidai240
https://www.instagram.com/daidai240/

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