海から見る対馬の魅力

海から見る対馬の魅力

対馬は、日本の離島の中でも佐渡島、奄美大島に次ぐ広さを誇る、大きな島です。訪れる多くの人たちは、まずバスやレンタカーで島を巡ります。展望台から眺める入組んだリアス海岸、史跡や神社、対馬ヤマネコに象徴される豊かな山の自然など、どれも対馬を代表する大きな魅力と言えるでしょう。しかし、もし時間に余裕があるなら、ぜひ一度「海から対馬を見る旅」を体験してほしいと思います。そこには、陸上からの観光とはまったく異なる、もうひとつの対馬の姿が広がっています。

古代から変わらない風景がどこまでも広がる。

915kmにも及ぶ対馬の海岸線は非常に入り組んでおり、多くの湾や入り江が点在しています。特に対馬の中央に広がる浅茅湾は、風や波の影響を受けにくい場所が多く、初めての方でもシーカヤックを安心して楽しめる理想的なフィールドです。波も穏やかで、訪れるたびにさまざまな表情を見せてくれます。シーカヤックで海へ漕ぎ出すと、360度見渡す限り建造物のない景色が広がり、日本の原風景そのものが今も残されています。深い緑の山々に包まれながらゆっくり進み、静かな入り江や無人島に上陸してティータイムを楽しむ―そんなのんびりとした時間を過ごせるのも、浅茅湾ならではの楽しみ方です。

入江に上陸。静かな場所でゆっくり休憩。

シーカヤックは、一見すると難しそうに感じるかもしれません。しかし実際には安定性の高い艇を使用し、出発前にはパドルの持ち方や漕ぎ方、海上での注意点などを丁寧にレクチャーします。そのため、ほとんどの方が陸上での説明と短い練習だけで、すぐに海へ漕ぎ出すことができます。体力に自信がない方や、お子様から年配の方まで、自分のペースで楽しめる点も、浅茅湾シーカヤックツアーの大きな魅力です。

パドルの向きや漕ぎ方など乗る前のレクチャー・事前練習

私たち対馬エコツアーが提供するシーカヤックツアーの見どころのひとつが、鋸割岩(のこわりいわ)です。海から近づいて見上げる高さ40mの巨大な石英斑岩の絶壁は、息をのむほどの迫力があります。さらに深い湾を進んだ先には、古代山城・金田城を望むこともできます。7世紀に築かれたこの城は、対馬が国境の島として重要な役割を担ってきた歴史の証です。古代の小舟を思わせるシーカヤックで海から山城の遺跡を眺めていると、時を超え、まるで1300年前の風景の中を旅しているかのような気分が味わえるでしょう。浅茅湾は、本物の歴史と大自然を体感できる、日本でも有数のマリンレジャーのフィールドなのです。

高さ40mを超える鋸割岩がそびえ立つ迫力。
海側から上陸し金田城の城壁を訪れる。

一方で、海から対馬を見るからこそ、気づかされる現実もあります。

海岸に打ち寄せられる漂着ごみ、かつて豊かな海藻が広がっていた場所で進行する磯焼け。こうした環境の変化は、陸からの視点では見えにくい場所に現れます。海面に近いシーカヤックで進むからこそ、そうした現実と自然に向き合う機会が生まれるのです。そして同時に、地域の人たちが長い年月をかけて海と向き合い、守り続けてきた営みを知ることで、対馬の海が、いかにかけがえのない美しい場所であるか、あらためて気づかされます。私自身、20年以上にわたりシーカヤックガイドとして海岸保全に携わってきました。その中で強く感じているのは、環境を「守る」という意識と同じくらい「関わり続けること」が何より大切だということです。特別なことをしなくても、海に出て、見て、感じることそのものが、自然との関係をつなぎとめる一歩になるのだと思います。

見渡す限り人工物が無い美しさは他にない

シーカヤックは、自然に大きな負荷をかけることなく、海と同じ目線で島を知ることができる、とても穏やかな移動手段です。楽しむこと、知ること、そして考えることが、無理なくひとつにつながっていきます。この体験を通して、環境のことや、私が生まれ育った対馬のことが、少しでも多くの人の心に届けば、これほど嬉しいことはありません。みなさん、せっかく国境の島「対馬」まで足を運んだのなら、古代と変わらぬ大自然と、歴史海道とも言える海をシーカヤックで巡り、その魅力を存分に味わってみてください。

上野 芳喜
Profile

上野 芳喜(うえの よしき)

故郷、対馬の海をフィールドに活動するシーカヤックガイド。20年以上パドルを握り続け、浅茅湾をはじめとする島の原風景を案内してきた。また一般社団法人 対馬CAPPA代表として、海ごみなどの課題に取組みながら、アウトドアによる環境プログラムを実施中。
夜はBAR風音家を営み、人と人が語り合える場で楽しむ、島のおもてなし親父。

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