占いで国家を決断?!豆酘の亀卜神事

占いで国家を決断?!豆酘の亀卜神事

国の命運を左右する国家の重大な決め事の場面で、さあどうする・・・?!このような緊迫した状況を、神話や歴史物語、漫画、能・歌舞伎などで一度は見たことがあるかと思います。古事記や日本書紀、平家物語など古典文学の中では、こういった国家意思決定の重要な局面で「占い」が用いられていたことはよく知られていますが、陰陽道のようなポピュラーなものよりも重要視されていたとされる占術「亀卜」をご存知でしょうか?!

皇位継承の「大嘗祭」において、新米の収穫地を決める儀式に亀卜を行うことをご存知の方もいらっしゃると思います。一昔前、この占術は朝廷が国家機密として独占し民間が行うことを禁じていたといわれ、謎に満ちています。その占いが現在でも習俗として残っている唯一の地。それがなんとここ、対馬なのです。亀卜とは、亀の甲を一定の作法で焼き、甲に生じた亀裂によって吉凶を占うという古くから伝わる占いの一つで、旧暦正月三日、下対馬エリアの豆酘地区「雷神社」の前では新年の祈祷とともに、この亀卜の作法を継承する祭事が行われています。この2月の伝統行事が「サンゾーロー祭」です。占者は豆酘地区の岩佐家が代々世襲して務め、貴重な記憶遺産として現在まで受け継がれています。

写真は2017年の様子

国境に位置する島は、古来より政治情勢の変化に翻弄されるため、平時でも決して油断できません。断絶か国交か、戦か交易か。その選択一つで島の命運、ひいては国の行方までもが左右されます。本土のように前例や慣習、権威によって物事を決める経験則は通用せず、常に予測不能な判断を迫られます。島に生きる人々には、選択を誤った際の犠牲を引き受ける覚悟と、状況の境目を読み取る鋭敏な感覚が求められていたのです。そうした不確実な状況の中で重んじられたのが亀卜でした。これは単なる未来予測ではなく「国家の重大な決断は人の恣意ではなく、神意に基づいて下された」という合意を形成するための、重要な意思決定の手段でした。この亀卜を専門に担ったのが卜部(うらべ)です。卜部は朝廷の祭祀・占いを司り、戦や外交、遷都といった国家の根幹に関わる局面で、神意を読み取り、その結果を中枢へと伝える役割を担いました。そして注目すべきは、その卜部が対馬をはじめ壱岐や伊豆など海の境界に位置する地域から朝廷へ送り出されていたとされる点です。

常に大陸との狭間に立って、外敵の気配をいち早く察知し、曖昧な状況の中で判断を重ねてきた対馬。その土地で培われた境界を読む知恵こそが、亀卜という形で国家中枢に移植され、日本を支えていたのでしょう。卜部とは、そんな叡智を都に届ける媒介者であり、対馬は単なる辺境ではなく、国家の意思決定を支える源泉であったということがわかります。現代社会においても、国際情勢は不安定、そして情報が錯綜し正誤の判断がつきにくく合理性や即断で決めきれない場面は少なくありません。こんなカオスな令和の時代こそ「神意に問い合意をつくる」という思い切った術が必要かも?!しれません。

(対馬感考案内人F)

※2026 年の「サンゾーロー祭」は2月19日を予定/写真提供 対馬市教育委員会文化財課

この記事をシェアする

  • エックスにシェアする
  • フェイスブックにシェアする
  • スレッズでシェアする
  • ラインでシェアする
トップに戻る 一覧に戻る